
カナダで歯科衛生士として働いていると、日本とカナダの歯科治療の違いに驚かされることが本当に多いです。その中でも最近、日本のニュースやSNSでよく見かける保険で白い歯(CAD/CAM冠など)の話題。カナダの臨床現場にいる私から見ると、非常に興味深く、同時に少し複雑な気持ちになります。
独特の材料を使ってのCAD/CAM冠や、新しく保険適用となったCAD/CAMブリッジ。これらは日本の皆保険制度が生んだ苦肉の策であり、限られた予算内で安く治療を行うための知恵の結晶といえます。コンピューター技術で金属を使わない修復物を作れる点は素晴らしいですが、北米の現場でCAD/CAMといえば、基本的にはセラミック、ジルコニアが使われます。一方、日本の保険診療では、あくまで制度内で認められた材料という制約があるため、同じCAD/CAM技術を使っていても、その設計思想は大きく異なります。保険診療という閉鎖的な枠組みの中で、安価な材料でいかに帳尻を合わせるかという工夫の末に生まれたのが、ハイブリッドレジンのCAD/CAM冠や、PEEK冠のような素材なのだと察します。
最近では、特にCAD/CAMブリッジ(樹脂系の素材を使用)の保険適用拡大には驚かされました。強度の問題や適合、脱離リスクといった懸念は、現場の歯科医師たちがこれから肌身で感じていくのだろうな、と思います。そしてニュース内の表記、1016日の経過や症例の選定条件といった背景を深読みしてしまい、正直なところ思うことは多々あります……(ここでは自粛いたします)
また、YAMAKINでは「SHIN‐BOW」を装着した実証試験を最長で1016日行っていて、ブリッジが外れる・欠ける・変色・着色する事例はあったものの、装着した18例のうち、壊れたり再び装着できなかったりしたトラブルは1例もなかったということです。
また日本の保険診療には、街の歯科医院での治療後の予後を長期的に追跡するシステムがないと思うので、現場の歯科医師が最近CADブリッジのトラブル増えたなと個々に感じていたとしても、それがデータとして集積され全国規模で検証、フィードバックされる仕組みはないと思います・・・結局、その保険適用された新しい治療の予後を証明するのは、統計データではなく、日本の現場で働く歯科医師達の肌感となることと思います。
それと興味深いのは、CADブリッジは従来のブリッジより3割安い、という謳い文句です。そもそも従来のブリッジでさえ、北米の感覚からすれば非常に特殊な存在です。カナダのクリニックでブリッジを作る場合、高い材料費と技術料が必要なため、高額なのが当たり前です。対して日本で一般的に使われている金銀パラジウム合金(金パラ)は、国際相場の影響をダイレクトに受けるため、国が公定価格を調整する(技巧所が仕入れる実際の金額より低くなる場合もある)という極めて特殊な運用をしているそうです。が、実際の市場価格との乖離により、貴金属が高騰するとメタルが入った治療をすればするほど赤字という逆転現象が起きる事もあるそうで・・・国としては、これ以上歯科医院に予算を割けない経済的な背景もあり、金属を使わずかつ安価な素材で、とりあえず治療を完了させるための手段として、CAD/CAMブリッジの保険適用が進んだのではないかと感じています。
カナダから日本の歯科医療を客観的に見ていると、国民全員に一定水準の治療を保証する皆保険制度は、世界的に見ても本当に奇跡のようなシステムだと感じます。カナダには日本のような保険適用で安く済む素材の冠やブリッジという選択肢自体が存在しないため、経済的な理由で治療を諦めざるを得ないケースも少なくありません。そう考えると、日本の保険制度での治療(実際に歯科従事者が自分や家族には使わない、と思っても)があるからこそ、日々の生活を支える噛める環境を維持できている人が大勢いるという事実は、決して忘れてはいけない日本の歯科保健医療の大きな強みであり、救いでもあります。
保険で白い歯!というニュースは、患者さんにとっては魅力的に映るはずです。でも、保険でできるから安心!とただ飛びつくのではなく、今の自分の歯の状態には何がベストなのか、という視点をぜひ大切にしてほしいのです。自費診療には、なぜそのコストがかかるのかという明確な理由(素材の耐久性、精密さ、歯科医師の技術、予後の安定性など)があります。一方で保険診療には、皆に平等に医療を届けるための、国による緻密なコスト管理と現場のギリギリの努力があります。それぞれのメリット、デメリットをしっかり理解した上で、自分自身が納得して選択する。治療が必要になった際には、ぜひ通っている歯医者さんとしっかり相談してみてください。(部品交換のように、よい素材を入れるから長持ちするという訳にはいかず、お口全体の状態、メンテの状況でも大きく変わります)
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